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[资源共享] 村上春樹 海辺のカフカ 下巻(完结)

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发表于 2015-2-16 16:06:50 | 显示全部楼层 |阅读模式

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海辺のカフカ 下巻
村上春樹

24
神戸を出発したバスが徳島駅前に停まったとき、時刻は既に夜の8時をまわっていた
「さて、ここはもう四国だよ、ナカタさん」
「はい。とても立派な橋でありました。ナカタさんはあんなに大きな橋を見たのは初めてであります」とナカタさんは言った。
二人はバスを降り、駅のベンチに座って、しばらく何をするともなくあたりの風景を眺めていた。
「それで、これからどこに行って何をするか、お告げみたいのはあったのかい?」と青年は尋ねた。
「いいえ。ナカタには相変わらず皆目わかりません」
「それは困ったね」
ナカタさんは何かを考えるように手のひらで長いあいだ頭をさすっていた。
「ホシノさん」と彼は言った。
「なんだい?」
「申し訳ありませんが、ナカタは眠りたいと思います。ひどく眠いのです。ここでこのまま眠り込んでしまいそうなくらいであります」
「ちょっと待ちなよ」と青年はあわてて言った。「ここで眠りこまれると、俺としても困るんだ。すぐ泊まるところ探すからさ、ちと我慢してくれよ」
「はい、ナカタは少し我慢して眠らないようにします」
「よう、メシはどうする?」
「食事はいりません。眠りたいだけであります」
星野青年は急いで観光案内を調べ、朝食つきのあまり値段の高くない旅館をみつけ、電話で部屋の空きがあることをたしかめた。旅館は駅から少し離れたところにあったので、二人はタクシーを拾ってそこに行った。そして部屋に入るとすぐに女中さんに布団を敷いてもらった。ナカタさんは風呂にも入らず、服を脱いで布団の中に潜り込み、次の瞬間には既に安らかな寝息をたていた。
「ナカタはたぶん長く眠ると思いますが、気になさらないでください。ただ眠っておるだけですので」と寝る前にナカタさんは言った。
「ああ、邪魔はしねえからさ、好きなだけ眠りなよ」と青年はあっという間もなく熟睡しているナカタさんに声をかけた。
星野青年はゆっくりと風呂に入り、そのあと一人で街に出た。しばらくあたりをあてもなく散歩をして、町の感じをだいたいつかんでから目についた寿司屋に入り、ビールを一本飲み、食事をした。青年はあまり強い方ではなく、ビールの中瓶一本で気持ちが良くなり、頬が赤くなった。それからパチンコ屋に入り、一時間ほどかけて3000円使った。そのあいだずっと中日ドラゴンズの帽子をかぶっていたので、何人もの人が珍しそうに彼の顔を見た。徳島で中日ドラゴンズの帽子をかぶって表を歩いているのはたぶん俺くらいのものなのだろうなと青年は思った。
旅館に戻ると、ナカタさんは最後に見たときと同じ姿勢で熟睡していた。部屋には明かりがついていたが、そんなものは寝ることの邪魔にはまったくならないようだった。この人は気楽でいいや、と青年は思った。それから帽子をとり、アロハシャツを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、下着だけになって布団の中に潜りこんだ、そして明かりを消す。しかし場所が変わって気が高ぶっているのか、なかなか寝付けなかった。やれやれ、これなら風俗にでも行って女の子に一発抜いてもらえばよかったかなと、彼は思った。でも暗がりの中でナカタさんの立てる安らかで規則的な寝息を聞いてるうちに性欲を抱いたりすることがきわめて不適切な行為であるように思えてきた。何故かは自分でもよくわからないけれど、風俗店に行けばよかったなどという考えを起こしたこと自体を、青年は恥じた。

 楼主| 发表于 2015-2-16 16:08:42 | 显示全部楼层

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眠れないまま部屋の暗い天井をながめるていると、素性のわからない奇妙な老人と二人で徳島市内の安旅館に泊まっている自分という存在に、だんだん確信がもてなくなってきた。本来なら今夜は東京行きの帰りの便を運転しているところだった。今頃はたぶん名古屋あたりを走っているはずだ。彼は仕事嫌いではなかったし、東京には電話をかければ会ってくれる女友だちもいる。でも彼はデパートに品物の納入を済ませたあと、ほとんど衝動的に神戸にいる仕事仲間に連絡を取り、今夜東京行きの運転を代行してもらった。会社に電話を入れて、強引に3日ばかり休暇をとり、この足でナカタさんと一緒に四国までやってきた。小さなバックにはとりあえずの着替えと洗面用具が入っているだけだ。
そもそも星野青年がナカタさんに興味を持ったのは、彼の風貌やしゃべりかたが死んだじいちゃんに似ていたからだった。でもしばらくすると、じいちゃんと似ているという印象はどんどん薄れていき、青年はむしろナカタさんという人間そのものに好奇心を抱くようになった。ナカタさんのしゃべり方はたしかにかなりずれていたし、しゃべる内容はそれ以上にずれていた。しかしそのずれ方には、何かしら人の心を引きつけるものがあった。彼はナカタさんという人間がこれからどこに行って何をするのか、知りたいと思った。

星野青年は農家の生まれで、男ばかりの五人兄弟の三男だった。中学校までは比較的まともだったのだが、工業高校にあがってから悪い友だちとつきあい始め、ろくでもないことばかりやるようになった。何度か警察沙汰にもなった。なんとか卒業だけはさせてもらったが、卒業したところでまともな勤め先もなく、女とのごたごたもあり、しょうがなく自衛隊に入った。ほんとうは戦車の運転がしたかったのだが、資格試験ではねられ、自衛隊にいるあいだは主に輸送用大型車両の運転をやっていた。3年で自衛隊をやめ、運送会社に職を見つけた。そしてそれ以来6年間、長距離トラックを運転し続けてきた。
大型トラックを運転するのは性に合っていた。機械にかかわること自体がもともと好きだったし、トラックの高い運転席に座って大きなハンドルを握っていると、自分の城にたてこもっているような気持ちになれた。もちろん仕事はきつい。労働時間もむちゃくちゃだ。でも毎朝けちな会社に出勤して、上司に見張られながらけちな仕事をするような生活にはとても耐えられそうにない。
昔から喧嘩っぱやい性格だった。小柄でひょろりとやせているので、喧嘩が強そうには見えないのだが、力はある。それに一度切れてしまうと抑えがきかなくなり、目が狂気じみてくるので、実戦になるとたいたいの相手はそれでひるんだ。自衛隊にいるときも、運転手になってからも、ずいぶん喧嘩をした。もちろん勝つこともあり、負けることもあった。しかし喧嘩に勝ったところで負けたところで、それで何かがどうなるというものでもないのだ。そのことがわかってきたのはつい最近だった。まあ今まで、よく大きな怪我をしなかったものだと自分でも感心する。
気持ちがすさんで暴れていた高校時代、警察の厄介になったときに、決まってじいちゃんが迎えに来てくれた。警官に頭を下げ、身柄を引き受けてくれた。帰り道にはいつも食堂に寄っておいしいものを食べさせてくれた。そういうときでも、説教じみたことはいっさい口にしなかった。両親が彼のために足を運んでくれたことは一度もない。貧乏で食べていくのがやっとだったし、ぐれた三男坊にかまっているような余裕はなかった。もしじいちゃんがいなかったら、俺はいったいどうなっていただろうなと彼はときどき思う。じいちゃんだけは少なくとも彼がそこに生きていることをちゃんと覚えていてくれたし、気にかけてくれていたもんな。
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:08:59 | 显示全部楼层

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にもかかわらず、そのころ彼は一度も祖父に感謝したことはなかった。感謝の仕方もわからなかったし、その前にまず自分が生き延びることで頭がいっぱいだったのだ。自衛隊に入ってしばらくして、祖父は癌で亡くなった。最後は頭がぼけて、彼の顔を見分けることもできなかった。祖父が亡くなった以来、一度も実家には帰っていない。

星野青年が翌朝8時に目をさましたとき、ナカタさんまだ同じかっこうで熟睡していた。寝息の大きさもその律儀なリズムも、昨夜と同じだった。青年は下に降りて、広い部屋でほかの客とと一緒に朝ご飯を食べた。質素な朝食だったが、みそ汁とご飯だけは食べ放題だった。
「お連れさん、朝ご飯は?」と女中が声をかけた。
「まだぐんぐん寝てんだ。どうも朝飯はいらないみたいだ。悪いけど布団はしばらくそのままにしといてくれるかな」と彼は言った。
お昼前になってもナカタさんは依然として眠り続けていたので、青年は旅館の宿泊を一日のばすことにした。それから外に出てそば屋に入り、親子丼を食べた。食事のあとしばらくあたりを散歩し、コーヒーを飲み、煙草を吸い、そこに置いてあった漫画週刊誌を何冊か読んだ。
旅館に戻るとナカタさんはまだ眠っていた。時刻は午後2時に近くなっている。青年は少し心配になってナカタさんの額に手をあててみた。とくに変わったところはない。熱くもなく、冷たくもない。寝息は相変わらず安らかで規則正しく、頬にはいかにも健康そうな赤みがさしている。どこか具合が悪いところがあるようにも見えなかった。ただただ静かに睡眠をとっているだけなのだ。寝返りひとつうたない。
「こんな長い時間寝ちゃって大丈夫なんかね。身体に悪くないのかしらねえ」と様子を見に来た女中が心配そうに言った。
「けっこう疲れていたんだよ」と星野さんは言った。「寝たいだけ寝かせておけばいいさ」
「はあ。でもこんなにぐっすり寝る人って初めて見たねえ」
夕食の時間になってもナカタさんは相変わらず眠っていた。青年は外に出てカレー屋に入り、ビーフカレーの大盛りとサラダを食べた。昨日と同じパチンコ屋に行って、また一時間ほどパチンコをした。今度は1000円も使わずにマールボロのカートンを二箱とることができた。そのカートン・ボックスを持って旅館に戻ったのが9時半だった。驚いたことに、ナカタさんはまだ眠っていた。
青年は時間を計算してみた。これでナカタさんはもう24時間以上眠っていることになる。長く眠るから気にしないでいいとは言われたけど、これはあまりにも長すぎる。彼は珍しく心細くなってきた。このままナカタさんが目を覚まさなかったら、いったいどうすればいいんだろう?
「参ったな」と彼は言って首を振った。

しかし翌日の朝の7時に青年が目をさましたとき、ナカタさんはもう起きあがって窓の外を眺めていた。
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:09:17 | 显示全部楼层

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「よう、おじさん、やっと起きたんだ」、青年はほっとして言った。
「はい、さきほど目が覚めました。どれくらいかはかわりませんが、ナカタはずいぶん長く眠ったような気がします。生まれ変わったような気がするくらいです」
「ずいぶんなんて生やさしいもんじゃねえよ。おとといの9時過ぎからずっと寝てるんだぜ。34時間くらいぶっつづけに寝たんじゃねえかな。まったく白雪姫じゃあるまいし」
「はい、ナカタはおなかがすきました」
「そりゃそうだろう。だって2日近く何も食べていないんだぜ」
二人は階下の広間に行って、朝食をとった。ナカタさんは女中がびっくりするくらいいっぱいご飯を食べた。
「この人はよく寝るけど、いったん起きるとご飯もよく食べるねえ。二日分は食べているよ」と女中は言った。
「はい、ナカタはしっかりご飯を食べなくてはなりません」
「健康なんですねえ」
「はい、ナカタは字こそ読めませんが、虫歯は一本もありませんし、眼鏡が必要になったこともありません。お医者にかかったこともありません。肩こりもしませんし、毎朝ウンコもしっかりと出ます」
「はあ、たいしたもんだ」と女中は感心して言った。「ところで今日一日何をなさるんですかね」
「西に向かいます」とナカタさんはきっぱりと宣言した。
「はあ、西にねえ」と女中は言った。「こっから西というと、高松の方になるかね」
「ナカタは頭が悪くて、地理のことはよくわかりません」
「とにかく高松まで行ったみようや、おじさん」と星野さんは言った。「あとのことはそれからまた考えればいいやな」
「はい、とにかく高松まで行ってみます。あとのことはそれから考えます」
「あんたがた、わりにユニークな旅行しているみたいだねえ」と女中が言った。
「実を言うとそうなんだ」と青年は言った。

部屋に戻ると、ナカタさんはすぐに便所に行った。そのあいだ星野さんは浴衣姿で畳の上にうつぶせになって、テレビのニュースを見ていた。たいしたニュースはなかった。中野区で有名な彫刻家が刺し殺された事件はまだ捜査の進展がない。目撃者もいないし、遺留品も手がかりを与えてくれない。その事件のしばらく前から行方がわからなくなっている15歳の息子の足取りを警察は調査している。
「やれやれ、また15歳かよ」と星野さんは思った。どうして最近こう15歳の少年ばかりが凶悪犯罪を起こすのだろう。15歳のときには彼は駐車してあるバイクを盗んで無免許で乗りまわしていた。だから他人のことをとやかく言えた義理ではない。もちろんバイクを拝借するのと、父親を刺し殺すのとでは話が違う。とはいえ、自分が何かのなりゆきで父親を殺さずにすんだのは、むしろ幸運なことだったのかもしれないと彼は思う。なにせよくなぐられたものな。
ニュースがちょうど終わったところで、ナカタさんが便所から戻ってきた。
「あの、ホシノさん。ひとつうかがってよろしいでしょうか」
「なんだよ」
「ホシノさん。ひょっとして腰が痛くありませんか?」
「ああ、長いこと運転手やってるからな、そりゃ腰は痛えさ。長距離のドライバーで腰を痛めてないやつはまずいねえよ。肩を痛めないピッチャーいねえのと同じだ」と青年は言った。「で、なんでとつぜんそんなこと訊くの?」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:10:37 | 显示全部楼层

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「ホシノさんの背中を見ておりますと、ふとそういう気がしたものですから」
「ふうん」
「ちょっとナカタがさわってみてもよろしいでしょうか?」
「べつにいいけどさ」
ナカタさんはうつぶせになったままの青年の腰の上に馬乗りになった。両手を腰骨の少し上にあて、そのままじっとしていた。青年はそのあいだテレビのワイドショーの芸能ゴシップを見ていた。有名な女優が、それほど有名ではない若手の小説家と婚約していた。そんなニュースには興味はなかったが、ほかに見るものもないので、彼はそれを見ていた。女優の収入は作家の収入の十倍以上あるということだった。小説家はべつにハンサムでもないし、とくに頭がよさそうにも見えなかった。青年は首をひねった。
「よう、こういうのってまずうまくいかねえよな。たぶんなんか思い違いみてえなのがあるんだよ」
「ホシノさん、ホシノさんの骨はいささかずれております」
「長いあいだ、ずれた人生を送ってきたんだ。それくらいのことはあるだろうよ」と青年はあくびをしながら言った。
「このままほうっておくとひどいことになるかもしれません」
「そうかい」
「頭も痛くなります、ウンコも出にくくなります、ぎっくり腰もなります」
「うーむ、そりゃ困ったね」
「ちょっと痛みますが、よろしいでしょうか」
「かまわねえよ」
「正直に申し上げますと、かなり痛みます」
「よう、おじさん、俺っちは生まれてこの方、家でも学校でも、自衛隊でも、ぼこぼこに殴られて生きてきたんだ。自慢じゃねけど、殴られなかった日なんて、指折って数えられるくらいのもんだ。今さら痛いも痒いもくすぐったいも甘いも辛いもあるもんか。好きにしなって」
ナカタさんは目を細め、意識を集中し、星野さんの腰骨にあてた二本の親指の位置を注意深く確かめた。位置が定めると、最初は様子を見ながらゆっくりと徐々に力を加えていった。それからはっと息を吸い、冬の鳥のような短い声をあげ、満身の力を込めて、骨と筋肉のあいだに思い切り指を押し込んだ。そのとき青年を襲った痛みは、道理を超えてすさまじいものだった。頭の中を巨大な閃光が走り、意識がそのまま真っ白になった。息が止まった。悲鳴を上げることさえできない。あまりの痛みに、何を考えることもできなかった。すべての思考が焼けてはじけとび、すべての感覚は痛みの中に集約された。身体の枠組みがいったんばらばらに分解されてしまったような気がした。死でさえもこれほど破壊的ではないはずだ。目を開けることもできない。うつぶせになったまま、なす術もなく畳の上によだれを垂らした。涙もぼろぼろとこぼれた。そういうひどい状態がたぶん30秒近く続いた。
それから青年はようやく息を吸い込み、肘をついてよろよろと身を起こした。畳が嵐の前の海のようにゆらゆらと不吉に揺れていた。
「痛かったでしょうか」
青年はまだ自分が生きていることを確かめるみたいに、頭をゆっくりと何度か振った。「よう、痛いなんてものじゃねえよ。皮を剥かれて、串で刺されて、すりこぎでのされて、その上を腹を立てた牛の大群が走ってったみたいな気分だ。何をやったんだ、いったい」
「ホシノさんの骨のかみあわせをもとのようにしておきました。これで当分大丈夫であります。腰は痛みません。ウンコもちゃんと出ます」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:11:10 | 显示全部楼层

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たしかに潮が引くみたいに激痛が去ると、腰のあたりがずいぶん軽くなっていることに青年は気がついた。いつものどろんとした気だるい感じが消えてなくなっている。こめかみのあたりもすっきりして、呼吸が楽になっていた。気がつくと便意もあった。
「うん、たしかになんか、あちこちで調子がよくなったような気がするな」
「はい、すべては腰の骨が問題であったのです」とナカタさんは言った。
「しかしそれにしても痛かったぜ」と星野さんは言ってため息をついた。

二人は徳島駅からJRの特急に乗って高松に向かった。宿泊代も、電車料金も星野青年が自分の金で払った。ナカタさんは自分が払うと主張したが、青年は言うことをきかなかった。
「俺がとりあえず出しておくから、あとで精算すりゃあいい。大の男が金の払いのことでぐしゃぐしゃするのは好きじゃねえんだ」
「はい、ナカタはお金のことはよくわかりませんので、ホシノさんにお任せいたします」とナカタさんは言った。
「でもな、ナカタさん、あんたの指圧のおかげで俺はずいぶん楽になった。少しくらいのお礼はさせてくれ。こんなに気持ちいいのは久しぶりのことだよ。なんか新しい人間になれたみてえだ」
「それはほんとうによかったです。シアツというのがどういうものなのか、ナカタにはよくわかりませんが、骨というのはとかく大事なものであります」
「指圧だか整体だかカイロなんとかだか、呼び方は俺にももうひとつよくわからんけど、どうやらあんたこういうのにずいぶん才能があるみたいだ。これを商売にしたら、うんともうかるぜ。そいつは保証するよ。俺の運転手の仲間を紹介するだけでも一財産作れるもんなあ」
「ホシノさんの背中を見ておりますと、骨がずれているのがわかりました。何かがずれておりますと、ナカタはこう、もとに戻したくなります。長いあいだ家具を作っておりましたので、そのせいもありまして、目の前に曲がっているものがありますと、なんでもまっすぐにしたくなります。それはナカタの前からの性分であります。しかし骨をまっすぐにしたのは初めてのことであります」
「才能ってのはきっとそういうものなんだろうな」と青年は感心して言った。
「その前は猫さんと話をすることができました」
「ほう」
「しかし少し前から急に猫さんと話ができなくなりました。それはたぶんジョニー・ウォーカーさんのせいであります」
「なるほど」
「ご存じのようにナカタは頭がよくありませんので、むずかしいことはよくわかりません。しかしここのところ、とかくむずかしいことが起こります。たとえば魚やヒルが空からたくさん降ってきます」
「ふうん」
「しかしホシノさんの腰の具合がよくなって、ナカタはとてもうれしいです。ホシノさんの気持ちのよっさは、ナカタの気持ちのよさでもあります」
「俺もたいへんうれしいよ」
「よかったです」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:11:29 | 显示全部楼层

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「よう、でもさ、このまえの富士川サービスエリアのヒルのことだけどさ」
「はい、ヒルのことはナカタもよく覚えております」
「ひょっとして、あれはナカタさんが関係してるのかい」
ナカタさんは珍しく少しのあいだ考え込んだ。「それはナカタにもよくわからないのであります。しかしナカタがこうして傘をさしますと、たくさんのヒルが空から降って参りました」
「ふうん」
「なんといっても、人を殺すのはよくないことであります」とナカタさんは言った。
「それはそうだ。人を殺すのはよくないことだ」と青年も同意した。

高松駅で二人は降りた。駅前にあるうどん屋に入り、二人で昼食にうどんを食べた。うどん屋の窓からは港の大きなクレーンが何本か見えた。クレーンにはかもめがたくさんとまっていた。ナカタさんは律儀に一本一本味わいながらうどんを食べた。
「とてもおいしいうどんであります」とナカタさんは言った。
「そりゃよかった」と星野さんは言った。「どうだい、ナカタさん場所はこのへんでよさそうかい」
「はい、ホシノさん、どうやらここでよいようであります。ナカタにはそのように思えます」
「場所はよしと、で、これから何をするの?」
「入り口の石をみつけようと思います」
「入り口の石?」
「はい」
「ふうん」と青年は言った。「きっとそこには長い話があるんだろうね」
ナカタさんは丼を傾けて、うどんの出し汁を最後一滴まで飲んだ。「はい。長い話があります。しかし長すぎて、ナカタには何がなんだかよくわかりません。実際にそこにいけばたぶんわかるのではないかと思いますが」
「例によって、そこにいけばわかるわけだ」
「はい、そのとおりであります」
「そこに行くまではわからねえと」
「はい。そこに行くまではナカタにもかいもくわかりません」
「まあいいや。俺も正直言って、長い話は苦手だ。とにかくその入り口の石を見つければいいんだな」
「はい、そのとおりであります」
「で、それはどのへんにあるの?」
「ナカタには見当もつきません」
「聞くまでもなかったね」と青年は首を振りながら言った。
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:12:42 | 显示全部楼层

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第25章

短く眠って目を覚まし、また短く眠って目を覚ます、というのを何度も繰りかえす。彼女のあらわれる瞬間をとらえたいと僕は思う。でも気づいたときには、少女はすでに昨夜と同じ椅子の上にいる。枕もとに置いた時計の夜光針は3時少し過ぎをさしている。ベットに入る前にまちがいなく閉めたはずの窓のカーテンは、やはりいつのまにか開いている。昨夜と同じだ。でも月は出ていない。部屋の中は昨夜よりずっと暗く、遠くの庭園灯の光が、庭の木立のあいだを抜けてかすかに届くだけだ。その暗さに目がなれるまでに時間がかかる。
少女は机の上に頬杖をつき、壁にかかった油絵を見ている。着ている服も昨夜と同じだ。部屋の暗さのせいで、目を凝らしても顔を見分けることはできない。しかしそのぶん、身体と顔の輪郭が不思議なほどくっきり、奥ゆきをもって薄闇の中に浮かびあがっている。そこにいるのが少女時代の佐伯さんであることに疑問の余地はない。
少女はなにかについて深く思いをめぐらせているように見える。それともただ長く深い夢を見ているだけかもしれない。いや、彼女自身が佐伯さんの長く深い夢そのものなのかもしれない。なににせよ、僕はその場所の均衡を乱すことがないようにじっと息をひそめている。身動きひとつしない。ときどき時計に目をやって時刻をたしかめるだけだ。時間はゆっくりと、しかし均一に確実に過ぎていく。
予告もなにもなく出し抜けに、僕の心臓が烈しく音をたてはじめる。誰かがたてつづけにドアをノックしているような、硬く乾いた音だ。その音はある種の決意を持って、静かな夜更けの部屋にしっかりと響きわたる。誰よりもまず僕自身がその音に驚いて、あやうくベットから飛び起きそうになる。
少女の黒いシルエットがわずかに揺らぐ。彼女の顔をあげ、暗がりの中で耳を澄ませる。僕の心臓がたてる音は彼女の耳に届いている。森の中の動物が聞き覚えのない物音に神経を集中するように、少女は軽く首をかしげている。それから彼女は僕のいるベットに顔をむける。でもその目には僕の姿はうつっていない。僕にはそれがわかる。僕は彼女の夢の中には含まれていないのだ。僕とその少女は、目に見えない境界線によってふたつのべつべつの世界に分割されている。
やがて僕の激しい心臓の鼓動は、やってきたときと同じように急速におさまっていく。呼吸ももとどおりになる。僕は気配を殺した存在に戻る。そして少女は耳をそばだてるのをやめる。もういちど『海辺のカフカ』に視線を戻す。前と同じように机の上に頬杖をつき、その心は絵の中にいる夏の少年へと戻っていく。
おおよそ20分ばかりそこにとどまったあとで、その美しい少女は去っていく。昨日と同じように裸足で椅子から立ちあがり、音もたてずにドアのほうに移動し、ドアを開けることなくその向こう側に消えてしまう。僕は同じ姿勢のまましばらく時間をやり過してから、起きあがってベットを出る。明かりはつけず、夜の暗闇の中で、少女がさっきまで座っていた椅子に腰をおろす。机の上に両手を載せ、彼女が部屋に残していった余韻の中に身をひたす。目を閉じて、そこにある少女の心の震えをすくいとり、僕自身の心にしみこませる。僕は目を閉じる。
その少女と僕とのあいだには少なくともひとつの共通点がある。僕はそのことに思いあたる。そう、僕らは二人ともこの世界からすでに失われてしまった相手に恋をしているのだ。
少しあとで僕は眠りつく。しかしそれは安定を欠いた眠りだ。身体は深い眠りを求め、その一方で意識は眠るまいとしている。僕はそのあいだを振り子のように揺れている。しかし夜が明けるか明けないないかのうちに、庭の鳥たちがにぎやかに活動を始め、その声をきっかけに僕はすっかり目覚めてしまう。

僕はジーンズをはき、Tシャツに上に長袖のシャツを着て外に出る。朝の5時過ぎ、近所にはまだ人どおりはない。古い町並みを抜け、防風林になっている松林を抜け、防潮堤をこえて海岸に出る。風はほとんど肌に感じられない。空は一面の灰色の雲に覆われているが、雨が降りそうな気配は今のところない。静かな朝だ。雲が吸音材のようになって、地上の様々な音を吸いこんでしまっている。
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:13:01 | 显示全部楼层

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しばらく海岸沿いの歩行者道路を歩きながら、あの絵の中の少年も、おそらくこの砂浜のどこかにキャンバスの椅子を持ちだして座っていたのだろうと想像する。しかしそれがどの場所であるかを特定することはできない。絵のなかに描かれていた背景は砂浜と水平線と空と雲だけだ。そして島。でも島はいくつもあるし、僕は絵の中の島のかたちをはっきり思いだすことができない。僕は砂浜に腰をおろし、海に向かって指で適当に絵のフレームを切りとってみる。そこに椅子に座った少年の姿を置いてみる。風のない空を、白いかもめが一羽、心をきめかねるように横切っていく。小さな波が規則正しく打ち寄せ、砂浜に柔らかな曲線を描き、小さな泡を残して引いていく。
僕は自分が絵の中の少年に嫉妬していることが気がつく
「君は絵の中の少年に嫉妬しているんだ」、カラスと呼ばれる少年が僕にそう耳うちする。

20歳になるかならないかで誰かべつの人間とまちがえられて意味もなく殺されてしまうことになる――それも今からもう30年くらい前のことなんだぜ――その気の毒な少年に対して、君は嫉妬している。胸が息苦しくなるくらい激しく。君が誰かに対して嫉妬めいた感情を抱くなんて、生まれて初めてのことだ。君は嫉妬というのがどういうものなのか、今ようやく理解することになる。それは野火のように君の心を焼く。
君は生まれてこのかた、誰かをうらやましいと思ったことは一度もなかったし、ほかの誰かになりたいと考えたこともない。でも君は今、その少年のことを心からうらやましいと思う。もしできるなら、その少年になりかわりたいと考えている。たとえ20歳で拷問にあって、そのまま鉄パイプで殴り殺されることが前もってわかっていたとしてもかまわない。それでもいいから君はその少年になって、15から20歳までの生身の佐伯さんを無条件で愛したいと思うし、彼女から無条件で愛されたいと思う。彼女と心おきなく抱きあい、何度も何度も交わりたいと思う。彼女の身体の隅から隅まで指で触れてみたいと思う。君の身体の隅から隅まで、彼女の指に触れてほしいと思う。そして死んでからも、ひとつの物語として映像として、彼女の心の中に焼きつけられたい。思い出の中で夜ごと彼女に愛されたいと思う。
そう、君はひどく奇妙な場所に立たされている。君はすでに失われてしまったはずの少女の姿に恋をして、すでに死んでしまった少年に嫉妬しているわけだ。にもかかわらずその想いは、今まで君が現実に体験したどんな感情よりもはるかにリアルで切ないものだ。そしてそこには出口がない。出口を見つけられる可能性すらない。君は時の迷宮の中に迷いこんでしまっている。なによりいちばん大きな問題は、そこから出ていきたいという気持ちを君がまったく抱けないでいることだ。そうだね?

大島さんは昨日よりも遅い時刻にやってくる。僕はその前に一階と二階の床に掃除機をかけ、机と椅子を水拭きし、窓を開けて拭き、洗面所を掃除し、ゴミ箱を空にし、花瓶の水を換えておいた。部屋の明かりをつけ、検索コンピュータのスイッチを入れる。あとは門を開けるだけだ。大島さんはひとつひとつ点検し、満足そうにうなずく。
「君はなかなか覚えがいいし、仕事も手早い」
僕はお湯をわかし、大島さんのためにコーヒーをつくる。僕は昨日と同じようにアールグレイの紅茶を飲む。外で雨が降り始めていた。かなり強い雨だ。遠くに雷鳴さえ聞こえる。まだ昼前だというのに、あたりは夕方のように暗い。
「大島さん、ひとつお願いがあるんだけど」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:15:16 | 显示全部楼层

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「どんなこと?」
「『海辺のカフカ』の楽譜をどこかで手に入れることはできないかな」
大島さんは少し考える。「もしインタネットの楽譜出版社のサイトのカタログの中に入っていれば、いくらか料金を払ってダウンロードすることは可能だろう。あとで検索してみよう」
「ありがとう」
大島さんはカウタンーの端っこに腰をかけ、コーヒーカップの中にすごく小さな角砂糖をひとつ入れ、スプーンで注意深くかきまわす。「どう、曲は気に入った?」
「とても」
「僕もあの曲は好きだよ。美しいのと同時に、ユニークだ。素直でありながら、奥ゆきがある。作り手の人柄のようなものがじかに伝わってくる」
「歌詞はずいぶん象徴的なものだけど」と僕は言う。
「詩と象徴性は古来、切り離すことのできないものだ。海賊とラム酒のように」
「佐伯さんには、そこにある言葉がなにを意味するかわかっていたと思う?」
大島さんは顔をあげて遠い雷鳴に耳を澄ませ、距離を測り、それから僕の顔を見る。そして首を振る。
「そうとはかぎらない。象徴性と意味性とはべつのものだからね。彼女はおそらく意味や論理といった冗長な手続きをパスして、そこにあるべき正しい言葉を手に入れることができたんだ。宙を飛んでいる蝶々の羽をやさしくつまんで捕まえるみたいに、夢の中で言葉をとらえるんだ。芸術家とは、冗長性を回避する資格を持つ人々のことだ」
「つまり佐伯さんは、その歌詞の言葉をどこかべつの――たとえば夢の――空間で見つけてきたのかもしれないということ?」
「優れた詩というのは、多かれ少なかれそういうものだからね。もしそこにある言葉が、読者とのあいだに預言的なトンネルを見つけられなかったなら、それは詩としての機能を果たしていないことになる」
「でもそういうふりをしているだけの詩もたくさんある」
「そのとおり。そういうふりをするのは、コツさえ呑みこんでしまえばむずかしいことじゃないからね。それらしく象徴的な言葉を使かえば、いちおう詩のように見える」
「でも『海辺のカフカ』の詩になにかとても切実なものが感じられる」
「僕も同じ意見だ。そこにある言葉は表層的なものじゃない。もっとも僕の頭の中では、その詩はすでにメロディーと一体化してしまっているので、純粋に詩のかたちだけを取りあげて、そこにどれほどの独立した言語的説得力があるのか、正確に判断できなくなってしまっているわけだけど――」と大島さんは言う。そして首を小さく振る。「いずれにせよ彼女は豊かで自然な才能に恵まれていたし、音楽的なセンスもあった。巡ってきたチャンスをつかみとるだけの現実的な才覚も備わっていた。あの気の毒な事件が起こって、彼女が人生からステップアウトしてしまわなかったら、その才能はもっと自由に発揮されていたはずだ。それはいろんな意味で残念な出来事だった」
「その才能はいったいどこに行ってしまったんだろう?」と僕は質問する。
大島さんは僕の顔えを見る。「君が尋ねているのは、恋人が死んだあと、佐伯さんの中にあった才能はどこに行ってしまったのか、ということ?」
僕はうなずく。「もし才能が自然なエネルギーようなものだとしたら、それはどこかに出口をみつけていくものじゃないの?」
「僕にはわからない」と大島さんは言う。「才能とは行く先の予測がつかないものなんだ。ただ単にすっと消えてしまうこともある。あるいは地下水のように地中深いところにもぐりこんで、そのままどこかへ流れていってしまうこともある」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:20:36 | 显示全部楼层

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日语词典:
「それとも佐伯さんは、そういう能力を音楽にではなく、べつのことに集中して使うことにしたのかもしれない」と僕は言う。
「べつのこと?」大島さんは興味深そうに眉を寄せる「たとえばどんなことに?」
僕は言葉に詰まる。「わからない。そんな気がしただけだよ。たとえば――かたちにならないことに」
「かたちにならないこと?」
「つまり、他人の目にうつらない、自分のためだけの追求のようなものに。内的な作業っていえばいいのかな」
大島さんは額に手をのばして、額に落ちた前髪を後ろにやる。細い指のあいだから髪がこぼれる。「興味深い意見だ。たしかに佐伯さんはこの街を出たあと、僕らの知らないところで、君の言うかたちにならないなにかに、才能なり能力なりをふり向けてきたのかもしれない。でもあの人はなにしろ25年くらいのあいだ姿を消していたわけだし、本人に尋ねでもしなくちゃ、どこでなにをしていたのか知りようがない」
僕は少し迷ってから、思い切って口に出す。
「ねえ、ものすごく馬鹿げたことたずねてもいいかな?」
「ものすごく馬鹿げたこと?」
僕は顔は赤くなる。「とんでもなく」
「かまわないよ。とんでもなく馬鹿げたことは僕もけっして嫌いじゃない」
「ねえ大島さん、こんなことを誰かに向かって口にするなんて、自分でも信じられないくらいなんだ」
大島さんは首を軽く傾げる。
「佐伯さんが僕のお母さんであるという可能性はないかな?」と僕は言う。
大島さんは沈黙する。カウンタンーにもたれかかったまま、時間をかけて言葉を探す。そのあいだ僕はただ時計の音に耳をすませている。
彼は言う、「君の言いたいことをざっと要約すると、つまり佐伯さんは20歳のときに絶望して高松を去り、どこかでひっそりと暮らしていたが、たまたま君のお父さんである田村浩一氏と知りあって結婚し、めでたく君を出産し、その4年後になんらかの事情があって君を置きざりにして家を出て、そのあとしばしミステリアスな空白があり、しかるのちに再び故郷の四国に帰ってきた――ということになるのかな」
「そう」
「可能性がないとは言えない。というか、とりあえず今の段階では君のその仮説を否定すべき根拠がない、ということだ。彼女の人生は長い期間にわたって謎に包まれているんだ。東京で暮らしていたという噂はある。そして彼女は君のお父さんとだいたい同年齢だ。ただし、高松に戻ってきたときにはひとりだった。もちろん娘はいても、独立して別のところで暮らしているという可能性はある。えーと、君のお姉さんはいくつっていったっけ?」
「21歳」
「僕と同じ歳だな」と大島さんは言う。「でも僕は君のお姉さんではないみたいだ。僕にはちゃんと両親がいて、兄がいる。どちらも血を分けた人々で、僕には出来過ぎた人々だ」
大島さんは腕組みをして、しばらく僕の顔を見ている。
「ところで僕のほうからひとつ君にたずねたいことがある」と大島さんは言う。「君はこれまで自分の戸籍を調べたことはある?そうすれば、お母さんの名前も年齢も簡単にわかるはずじゃないのかな」
「調べてみたよ、もちろん」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:20:55 | 显示全部楼层

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日语词典:
「お母さんの名前はどうなっていた?」
「名前はなかった」と僕は言う。
大島さんはそれを聞いて驚いたようだった。「名前がない?そんなことあり得ないはずだけどね」
「でもなかったんだ。本当に。どうしてないのか、僕にもわからない。でもとにかく戸籍からみれば、僕には母親がいないんだ。姉もいない。戸籍簿の中には父親の名前と僕の名前しか記載されていない。つまり僕は法律的には庶子っていうことになる。要するに私生児だよ」
「しかし現実には、君にちゃんとお母さんとお姉さんがいた」
僕はうなずく。「4歳になるまで、僕はじっさいに母親と姉がいたんだ。僕ら4人は華族としてひとつの家の中に暮らしていた。僕はそのことははっきり覚えている。ただの想像とか、そういうじゃないよ。僕が4歳になってすぐに、二人は家を出ていった」
僕は財布の中から僕と姉が海辺で二人で遊んでいる写真を出す。大島さんはその写真をしばらく眺め、微笑みを浮かべ、僕に返す。
「『海辺のカフカ』」と大島さんは言う。
僕はうなずく、その古い写真を財布に戻す。風が舞い、雨がときおり窓ガラスにあたって音をたてる。天井の明かりが僕と大島さんの影を床に落としている。そのふたつの影は、裏返しの世界で不吉な密談をしているみたいにみえる。
「君はお母さんの顔を覚えていないの?」と大島さんはたずねる。「4歳になるまでお母さんといっしょに暮らしていたんだから、どんな顔だったか少しくらいは覚えているものじゃないかな」
僕は首を振る。「どうしても思いだせないんだ。どうしてかわからないけれど、僕の記憶の中では、母の顔部分だけが暗く、影みたいに塗りつぶされている」
大島さんはそれについてしばらく考えている。
「ねえ、君が佐伯さんを君のお母さんじゃないかと推測する根拠を、もう少し詳しく話してくれないか」
「もういいよ、大島さん」と僕は言う。「その話はやめよう。きっと僕は考えすぎているんだと思う」
「かまわないから、頭の中にあることをなんでも話してごらん」と大島さんは言う。「君が考えすぎているかどうかは、そのあとで二人で判断すればいいことだ」
床の上の大島さんの影が、彼のちょっとした動きにあわせて動く。その動きは本物より少しだけ誇張されているように見える。
僕は言う、「僕と佐伯さんとのあいだには、符合するものがびっくりするほどたくさんある。どれもがパズルの欠けていたピースみたいにぴったりかみあう。『海辺のカフカ』を聴いていて、そのことがはっきりわかったんだ。ねえ、まずだいいちに僕はまるでなにかの運命にひきつけられるように、この図書館にやってきた。中野区から高松まで、ほとんど一直線に。それは考えてみるとすごく不思議なことだよ」
「たしかにギリシアの悲劇の筋書きみたいだ」と大島さんは言う。
僕は言う、「そして僕は彼女に恋をしている」
「佐伯さん?」
「そう。たぶんそうだと思う」
「たぶん?」と大島さんは言って眉をしかめる。「それはたぶん佐伯さんに恋をしている、ということ?それも佐伯さんにたぶん恋をしているということ?」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:21:12 | 显示全部楼层

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日语词典:
僕はまた赤くなる。「うまく説明することができないんだ」と僕は言う。「とても入り組んでいて、僕にもいろんなことがまだよくわかっていない」
「でも君はたぶん佐伯さんにたぶん恋をしている?」
「そう」と僕は言う。「とても強く」
「たぶんだけれど、とても強く」
僕はうなずく。
「同時に、彼女が君のお母さんかもしれないという可能性も残されている」
僕はもう一度うなずく。
「君はまだ髭もはえていない15歳の少年にしては、いろんなことをひとりで背負いこみすぎる」、大島さんはコーヒーを注意深くひとくち飲み、カップをソーサーに戻す。「それがいけないと言っているわけじゃない。しかしすべてのものごとに臨界点というものがある」
僕は黙っている。
大島さんはこめかみに指をあてて、しばらく考えごとをしている。それから両手の細い指を胸の前で組み合わせる。
「なるべく早く『海辺のカフカ』の楽譜を手に入れてあげよう。あとの仕事は僕がやるから、自分の部屋に戻っていたほうがいい」

昼食の時間に僕は、大島さんのかわりにカウンターに座る。雨が降りしきっているせいで、図書館の利用客はいつもより少ない。大島さんは休憩から戻ってきたときに、僕に楽譜のコピーが入った大型の封筒を手渡してくれる。コンピュータからプリントアウトしたのだ。
「便利な世の中だ」と大島さんは言う。
「ありがとう」と僕は礼を言う。
「よかったら、コーヒーを二階に持っていってくれないか。君はコーヒーをつくるのがなかなかうまい」
僕は新しいコーヒーをつくり、それをトレイに載せて二階の佐伯さんのところにもって行く。砂糖もクリームもなし。いつものようにドアは開け放しになっている。彼女は机に向かって書き物をしている。僕がコーヒーを机に置くと、彼女は顔をあげて微笑む。それから万年筆にキャップをかぶせて紙の上に置く。
「どう、少しここになれたかしら」
「すこしずつ」と僕は言う。
「今は時間はある?」
「時間はあります」と僕は言う。
「じゃあそこに座って」と佐伯さんは机のそばにある木の椅子を指さす。「少しお話をしましょう」
雷がまた鳴り始めている。まだ遠くだが、少しずつこちらに近づいているみたいだ。僕は言われたとおり椅子に腰をおろす。
「ところであなたはいくつだっけ。16歳?」
「ほんとうは15歳です。このあいだ15歳になったばかり」と僕は答える。
「家出をしてきたのね?」
「そうです」
「家出をしなくてはならない、はっきりした理由のようなものはあったの?」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:22:25 | 显示全部楼层

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日语词典:
僕は首を振る。いったいなんと言えばいいのだろう?
佐伯さんはカップを手に取り、僕の返事を待つあいだコーヒーをひとくち飲む。
「そこにいると、自分があとに引き返せないくらい損なわれていくような気がしたんです」と僕は言う。
「損なわれる?」と佐伯さんは言って目を細める。
「はい」と僕は言う
彼女は少し間を置いて、それから言う。「あなたくらいの歳の男の子が損なわれるっていうような言葉を使うのは、私にはなんとなく不思議な気がするのよ。興味をひかれると言ってもいいんだけど……。それで、もっと具体的に言うとどういうことなのかしら、あなたの言う損なわれるってことは?」
僕は言葉を探す。僕はまずカラスと呼ばれる少年の姿を求める。でも彼はどこにもいない。僕は自分で言葉を探す。それには時間がかかる。でも佐伯さんはじっと待っている。稲妻が光り、それからしばらくあって遠い雷鳴が聞こえてくる。
「自分があるべきではない姿に変えられてしまう、ということです」
佐伯さんは興味深そうに僕を見る。「でも時間というものがあるかぎり、誰もが結局は損なわれて、姿を変えられていくものじゃないかしら。遅かれ早かれ」
「たとえいつかは損なわれてしまうにせよ、引き返すことのできる場所は必要です」
「引き返すことのできる場所?」
「引き返す価値のある場所のことです」
佐伯さんは正面から僕の顔をじっと見ている。
僕は赤くなる。でも勇気を出して顔をあげる。佐伯さんはネイビーブルーの半袖のワンピースを着ている。彼女は様々な色合いのブルーのワンピースをもっているようだ。銀の細いネックレスと、黒い革の小さいな腕時計、それだけが装身具だ。僕は彼女の中に15歳の少女の姿を探しもとめる。その姿はすぐに見つかる。少女はその心の森の中にだまし絵みたいに潜み、こっそりと眠っている。でも目をこらせばその姿が見える。僕の心臓がまた乾いた音をたてる。誰かがマンマーを使って、僕の心の壁に長い釘を打ちつけている。
「あなたは15歳になったばかりにしては筋がとおったしゃべりかたをするのね」
どう返事をすればいいのか僕にはわからない。僕は黙っている。
「私も15歳のころは、どこかべつの世界に行ってしまいたいといつも思っていた」と佐伯さんは微笑んで言う。「誰の手も届かないところに。時の流れのないところに」
「でもこの世界にはそんな場所はありません」
「そのとおりね。だから私はこうして生きているのよ。ものごとが損なわれつづけ、心が移ろいつづけ、時が休みなく流れていく世界で」彼女は時の流れを暗示するとうに、ひとしきり口をつぐむ。それからまたつづける。「でも15歳のときには、そういう場所が世界のどこかにきっとあるように私には思えたの。そういうべつの世界に入るための入り口を、どこかで見つけることができるんじゃないかって」
「佐伯さんは孤独だったですか。15歳の時に?」
「ある意味では、そう。私は孤独だった。ひとりぼっちではなかったけれど、それでもひどく孤独だった。どうしてかといえば、自分がこれ以上幸福になれっこないということがわかっていたから。それだけははっきりわかっていたの。だからそのときのかたちのまま、私は時の流れのない場所に入ってしまいたかった」
「僕は少しでも早く歳をとりたいと思っています」
佐伯さんは少し距離を置いて僕の表情を読む。「あなたはきっと私より強いし、独立心があるのよ。そのころの私はただ現実逃避の幻想を抱いているだけだった。でもあなたは現実に立ち向かって闘っている。そこには大きなちがいがある」
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:22:46 | 显示全部楼层

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日语词典:
僕は強くもないし、独立心があるわけでもない。ただ現実によっていやおうなく前に押しだされているだけなのだ。しかし僕はなにも言わない。
「あなたを見ていると、ずっと昔に15歳だった男の子のことを思いだすわ」
「その人は僕に似ている?」と僕は尋ねる。
「あなたのほうが背は高いし、体つきもがっしりしている。でも似ているかもしれない。彼は同年代の子どもたちとは話があわなくて、いつもひとりで部屋にこもって、本を読んだり音楽を聴いたりしていた。むずかしい話をするときには、あなたと同じように眉のあいだにしわが寄った。あなたもよく本を読むということだけれど」
僕はうなずく。
佐伯さんは時計を見る。「コーヒーをありがとう」
僕は立ちあがって部屋を出ていこうとする。佐伯さんは黒い万年筆を手にとり、ゆっくりとキャップをはずし、また書き物を始めようとする。窓の外また稲妻がきらめき、部屋を一瞬不思議な色に染める。少し間を置いて雷鳴が届く。前よりもその間隔は短くなっている。
「ねえ田村くん」と佐伯さんは僕に声をかける。
僕は敷居の上で立ち止まり、振りかえる。
「ふと今思いだしたんだけど、私は昔、雷についての本を書いたことがあるの」
僕は黙っている。雷についての本?
「落雷に打たれてたすかった人を探して全国をインタビューして歩いたのよ。何年もかけて。インタビューはけっこう集まったし、どれもなかなか興味深い話だった。本は小さいな出版社から出版されたんだけど、でもほとんど売れなかった。そこには結論というものがなかったの。そして結論がないような本を誰も読みたがらなかった。結論がないのが私にはとても自然なことに思えたんだけど」
小ぶりなハンマーが僕の頭の中で、引き出しのどれかをこつこつと叩いている。とても執拗に叩いている。僕はなにかとても重要なことを思いだそうとしている。しかし自分がなにを思いだそうとしているのか、それがわからない。佐伯さんはまた書きものに戻り、僕はあきらめて部屋に戻る。

激しい雷雨が1時間ばかり続いた。図書館のガラスというガラス粉々に砕けてしまうんじゃないかと思えるくらいの激しい雷だった。稲妻が走ると、階段の踊り場にあるステンドグラスがそのたびに古い幻のような光を白い壁に投げた。しかし2時間前には雨もあがり、いろんなものごとがようやく和解に達したみたいに、黄色い陽光が雲間からこぼれ始める。そんな優しい光の中で雨だれの音だけがいつまでもつづいている。やがて夕方がやってきて、僕は閉館の支度をする。佐伯さんが僕と大島さんにさよならを言って帰っていく。彼女のフォルクスワーゲン・ゴルフのエンジン音が聞こえてくる。僕は彼女が運転席に座ってキイをまわしている姿を思い浮かべる。僕は大島さんにあとの片付けはひとりでできるから大丈夫だよと言う。大島さんはオペラのアリアを口ずさみながら洗面所で手と顔を洗い、そして帰っていく。彼のマツダ・ロードスターのエンジン音が聞こえて、それが小さくなり消えていく。そして図書館は僕ひとりのものになる。いつもより深い静寂がそこにはある。
部屋に戻って、大島さんがプリントアウトしてくれた『海辺のカフカ』の楽譜を見る。思ったとおりほとんどのコードはシンプルなものだ。そしてブリッジの部分にひどくややこしいコードがふたつある。僕は閲覧室に行ってアップライン・ピアノの前に座り、その音を押さえてみる。指づかいはとてつもなくむずかしい、何度も練習をかさね、手の筋肉を馴らして、なんとかその音を出せるようになる。最初のうちそれはまちがった不適当な和音にしか聞こえない。楽譜のミスプリントじゃないかと僕は思う。あるいはピアノの調律が狂っているじゃないかと。しかしそのふたつの和音の響きを交互に何度も、注意深く聴いているうちに、『海辺のカフア』という曲のよりどころはまさにこのふたつの響きにあるんだと僕は納得する。そのふたつの和音があるおかげで『海辺のカフカ』はありきたりのポップソングにはないとくべつな深みのようなものを獲得している。でもいったいどうやって佐伯さんには、こんな普通じゃない和音を思いつけたのだろう?
 楼主| 发表于 2015-2-16 16:23:10 | 显示全部楼层

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日语词典:
僕は自分の部屋に戻り、電気ポットでお湯を沸かし、お茶を入れて飲む。それから納戸からもってきた古いレコードを順番にターンテーブルの上に載せる。ボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』、ビートルズの『ホワイト・アルバム』、オーティス・レディング『ドック・オブ・ザ・ベイ』、スタン・ゲッツの『ゲッツ/ジンルベルト』。どれも60年代後半に流行った音楽だ。この部屋にいた少年は――そしてそのとなりにはきっと佐伯さんがいたはずだ――今の僕と同じようにこれらのレコードをターンテーブルに載せ、針を落とし、スピーカーから出てくる音に耳を澄ませていたのだ。その音は僕をふくめて、部屋ぜんたいを異なった時間の中にはこんでいくみたいに感じられる。僕がまだ生まれてもいなかった世界に。僕はそれらの音楽を聴きながら、今日の昼に二階の書斎で佐伯さんと交わした会話を頭の中にできるだけ正確に再現してみる。
「でも15歳の時には、そういう場所が世界のどこかにあるように私には思えたの。そういうべつの世界に入る入り口を、どこかで見つけることができるじゃないかって」
僕は彼女の声を耳もとに聴くことができる。なにかがまた頭の中にあるドアをノクする。強く執拗に。
「入り口?」
僕は『ゲッツ/ジンルベルト』から針をあげる。そして『海辺のカフカ』のシングル盤をとりだし、ターンテーブルに載せる。針を落とす。彼女は歌う。

「溺れた少女の指は
入り口の石を探し求め
蒼い衣の裾をあげて
海辺のカフカを見る」

この部屋を訪れる少女はおそらく入り口の石を探しあてることができたのだ、と僕は思う。彼女は15歳のままべつの世界にとどまり、夜になるとそこからこの部屋にやってくる。淡いブルーのワンピースを身にまとい、彼女は海辺のカフカを見つめる。
それからなんのきっかけもなく、とつぜん僕は思いだす。父親がいつか、自分は雷に打たれたことがあると語っていたことを。直接その話を聞いたわけじゃない。どこかの雑誌のインタビューでたまたま目にしたのだ。父はまだ美術大学の学生だったころ、ゴルフ場でキャディーアルバイトをしていた。ある7月の午後、客のあとをついてコースをまわっているときに突然空の色が変わり、激しい雷雨がやってきた。そしてたまたま雨宿りしていた木に雷が落ちた。大きな木がまんなかからふたつに割れ、いっしょにいたゴルファーが命を落としたが、父はその直前になにか予感のようなものを感じて木の下から飛びだし、命を取りとめた。軽いやけどを負い、髪が焼け、ショックではじき飛ばされたときに石に強く顔をぶっつけて失神しただけだった。そういう話だった。そのときの傷はまだ額に小さく残っている。それが今日の昼下がりに佐伯さんの部屋の入り口に立って、雷鳴を聞きながら僕が思いだそうとつとめていたことだった。父親が彫刻家として本格的な活動を始めたのは、その怪我から回復してからだ。
あるいは佐伯さんは、落雷にあった人々についての本を書くための取材インタビューをしているときに、父に出会ったのかもしれない。その可能性はある。落雷を受けて命を取りとめた人が世の中にそれほどたくさんいるとは思えないから。
僕は息をひそめ、夜が更けていくのを待つ。雲が大きく割れ、月の光が庭の樹木を照らす。あまりにも符合が多すぎる。いろんなものごとが急速にひとつの場所に結集し始めている。
 楼主| 发表于 2015-2-17 08:26:09 | 显示全部楼层

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日语词典:
第26章

もう午後も遅くなっていたし、とりあえず泊まる場所を確保しなくてはならなかった。星野青年は高松駅の観光案内所に行って適当な旅館を予約してもらった。駅まで歩いていけるというのが取り柄の、あまりぱっとしない旅館だったが、青年もナカタさんもとくに不満は持たなかった。布団に入って横になって眠ることができれば、どこだってかまわない。前の旅館と同じように朝食だけで夕食はついていない。いつ眠りこんでしまうかもしれないナカタさんにはその方が好都合だった。
部屋に入ると、ナカタさんは青年をもう一度畳の上にうつぶせに寝かせ、その上に乗って腰骨から背骨にかけて関節と筋肉の具合をひとつひとつ細かく点検していった。今回はほとんど指先に力を入れなかった。ただ骨のかたちをなぞり、筋肉の張り具合を調べるだけだ。
「よう、なんか問題あるかい?」と青年は不安そうに尋ねた。また出し抜けに痛い目にあわされるのではないかと怯えていたのだ。
「いいえ、大丈夫なようです。もう具合の悪いところはひとつも見あたりません。骨もずいぶん良いかたちに復しております」とナカタさんは言った。
「それはよかった。正直言って、もう二度とあんなひどい目にあいたくねえものな」と青年は言った。
「はい、申し訳ありませんでした。しかしホシノさんは痛いの平気だとおっしゃったものですから、それで、ナカタは力の限り思い切りやりました」
「そりゃまあたしかにそう言ったよ。言ったけどさ、しかしね、おじさん、ものごとにはやっぱし程度ってものがあるんだよ。世間には常識ってものがある。まあ、腰を治してもらったからあれこれ文句は言えないんだけどさ、いや、あの痛さはとくべつだったね。とんでもねえものだった。ちょっと思いつかないくらいの痛みだった。身体ばらばらになっちまった。なんかもう、いったん死んでからあらためて生き返ったみてえな気がするくらいだ」
「ナカタは3週間ばかり死んでいたことがあります」
「ふうん」と青年は言った。そしてうつぶせになったままお茶をひとくち飲み、コンビニエンス・ストアで買ってきた柿の種をぽりぽりと食べた。「そうか、おじさんは3週間死んでたんだ」
「はい」
「で、そのあいだどこにいたの?」
「それが、ナカタもよく覚えておらんのです。どこかずっと遠いところにいて、べつのことをしていたような気がします。しかし頭がふわふわしまして、何を思い出すこともできません。それからこちらに戻って参りまして、頭が悪くなりまして、読み書きもまったくできなくなりました」
 楼主| 发表于 2015-2-17 08:26:39 | 显示全部楼层

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日语词典:
「読み書きの能力をあっちに置いてきちまったんだね。きっと」
「そうかもしれません」
二人はそのまましばらく黙っていた。それがどんなに突飛で奇矯なことであっても、ホシノ青年は、この老人が口にすることはいちおうそのまま信じておいた方がいいような気持ちになっていた。しかしその「いったん3週間死んだ」問題をこれ以上深く追求していくと、収拾のつかない混乱の中に足を踏み入れていくことになるのではないかという不安も、心の隅に感じていた。だから話題を変えて、もう少し現実的な目前の問題について語り合うことにした。
「で、ナカタさん、高松に着いてこれからどうするつもりなの?」
「わかりません」とナカタさんは言った。「何をすればいいのか、ナカタはよくわからんのです」
「あの、俺たち、<入り口の石>ってのをみつけるんじゃなかったっけね?」
「はい。そうです。そのとおりです。ナカタはそれをすっかり忘れておりました。石をみつけなくてはなりません。しかしどこに行けばその石が見つかるのか、ナカタにはまだ皆目わかりません。ここにこうふわふわががありまして、うまく晴れません。頭がもともと良くない上に、そういうものまで出てきておりますので、これはどうしようもありません」
「そりゃ困ったな」
「はい、けっこう困ります」
「かといって、二人で顔をつきあわせてここにじっとしていても、面白くねえし、話は始まらねえしなあ」
「おっしゃるとおりであります」
「で、俺は思うんだけどさ、とりあえずいろんな人に訊いてまわったらどうだろう。このへんにそういう石はありますかって」
「ホシノさんがそうおっしゃるのであれば、ナカタもそれをやってみようと思います。いろんな人に尋ねてまわります。誇るわけではありませんが、ナカタは頭が良くないものですから、ものを尋ねるのには馴れております」
「うん、聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥、てのが俺のじいちゃんの口癖だったね」
「まったくそのとおりであります。死んでしまえば知っていることも全部なくなって消えてしまいます」
「あの、そういう意味でもないんだけどさ」と青年は頭をかきながら言った。「まあいいや……で、だいたいのところでいいんだけどさ、それがどんな石だが、大きさとかかたちとか色合いとか、それともどんな効能があるだとか、頭の中に何かイメージってない?そういうのがある程度わかってないと、誰かに尋ねるにも尋ねづらいからさ。『このへんに入り口の石ってありませんか』ってだけじゃ、なんのことだか誰にもわからないだろうし、こっちの頭がおかしいじゃないかって思われるかもしれない。そうだろう?」
「はい、ナカタは頭が良くありませんが、頭がおかしいわけではありません」
「なるほど」
「ナカタが探しておりますのはとくべつな石であります。それほど大きいものではありません。色は白く、匂いはありません。効能のことはよくわかりません。こういう丸いお餅のようなかたちをしております」
ナカタさんは両手の指でLPのレコードくらいの大きさの円を作った。
 楼主| 发表于 2015-2-17 08:27:15 | 显示全部楼层

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日语词典:
「ふうん。それってさ、ナカタさんが目の前で見たらわかるのかい。おお、それがその石だって」
「はい。一目見ればナカタはわかります」
「それは由緒とか伝統とか、そういうものがあるいわくつきの石なのかね。有名なもので、特別展示物みたく神社に飾ってあるとかさ」
「どうでしょうか。ナカタにはよくわかりませんが、あるいはそういうこともあるかもしれません」
「それどもどっかの家で漬物樽の重しに使われているかもしれない」
「いいえ。そのようなことはありません」
「どうしてわかるの?」
「それは誰にでも動かせるというのではないからです」
「でもナカタさんには動かせる」
「はい、ナカタにはたぶん動かせます」
「動かすとどうなるの?」
ナカタさんは珍しく考え込んだ。あるいは考え込むような顔をしていた。短く刈り込んだ白髪混じりの頭を、手のひらでごしごしとこすっていた。
「そこのところは、なかなかよくわかりません。ナカタにわかっておりますのは、誰かがそろそろそれをやらなくてはならないということです」
青年も考え込んだ。
「そしてその誰かというのはナカタさんのことなんだね。今のところ」
「はい、そのとおりであります」
「その石ってのは高松にしかないものなのかね?」と彼は尋ねた。
「いいえ、そういうことではありません。場所はどこでもかまわないような気がします。今はたまたまここにある、というだけのことであります。これが中野区であればもっと近くて便利であったのですが」
「しかしさ、ナカタさん、そんな特別な石を勝手に動かしたりして、ひょっとして危険じゃないのかね?」
「はいホシノさん。こういってはなんですが、なかなか危険であります」
「参ったなあ」と言って。星野青年はゆっくりと首を振りながら中日ドラゴンズの帽子をかぶり、後ろの穴からポニーテールを外に出した。「なんだかインディ・ジョーンズの映画みてえになってきたぜ」

翌日の朝、二人は駅の観光案内所に行って、高松市内かあるいはその近郊になにか有名な石のようなものはないかと尋ねた。
「石ですか」とカウタンーにいた若い女性は、かすかに顔をしかめて言った。彼女はそういう専門的な質問をされて、明らかに困惑しているようだった。とおり一篇の名所旧跡を案内する訓練しか受けていないのだ。
「これくらいの大きさの丸いかたちの石なんだけどさ」と青年は言って、ナカタさんがやったのと同じように、両手でLPレコードくらいの大きさを作った。「で、<入り口の石>っていう名前で呼ばれているんだ」
「<入り口の石>」
「そう。そういう名前がついているの。わりに有名な石なんだと思うよ」
「入り口って、どこの入り口なのですか?」
「それがわかったら苦労はしないんだけどね」
 楼主| 发表于 2015-2-17 08:27:33 | 显示全部楼层

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カウンターの女性はひとしきり考えこんだ。星野さんはそのあいだじっと彼女の顔を見ていた。顔立ちは悪くないのだが、目と目のあいだが少し開きすぎている。そのせいで、用心深い草食動物みたいにみえなくもない。彼女は何ヶ所に電話をかけて、入り口の石について何か知っている人はいないか聞いてまわった。でも役に立つ情報は得られなかった。
「すみませんが、誰もそういう名前の石の話は聞いたことないみたいです」と彼女は言った。
「ぜんぜん?」
女性は首を振った。「申しわけありません。失礼ですが、みなさんはその石を探して、わざわざ遠くからお見えになったのでしょうか?」
「うん、わざわざというか何というか、俺は名古屋から来た。このおじさんははるばる東京の中野区から来たんだ」
「はい、ナカタは東京都中野区からまいりました」とナカタさんは言った。「いろんなトラックに乗せていただいて、途中でウナギまでごちそうになりました。一銭もつかうことなくここまでまいりました」
「はあ」と若い女性は言った
「まあいいや。誰もその石のことを知らないんなら、それはしょうがねえよ。お姉さんのせいじゃない。でもさ、<入り口の石>という名前じゃないにしても、このへんに何か有名な石はないのかな。由緒のある石とか、伝説伝承のある石とか、御利益のある石とか、なんだっていいんだけどさ」
カウタンーの若い女性は距離の開いた一対の目で、青年のかぶっている中日ドラゴンズの帽子と、ポニーテールの髪と、緑色のサングラスと、ピアスと、レーヨンのアロハシャツをおそるおそるひととおり観察した。
「あの、申しわけありませんが、もしよろしかったら道順をお教えしますので、市立図書館にでも行ってご自分で調べていただけませんでしょうか。石のことって、私よくわからないものですから」

図書館でも収穫はなかった。市立図書館には、高松市近辺の石について専門的に書かれた本は一冊もなかった。リファレンス担当の司書は「どこかに石についての記述があるかもしれませんから、ご自分で内容をあたってみたください」と言って、『香川県の伝承』とか『四国における弘法大師伝説』とか「高松の歴史」といったたぐいの本を一山置いていった。星野青年がため息をつきながら、それを夕方までかけて読んだ。そのあいだ字の読めないナカタさんは『日本の名石』といった写真集を、1ページ1ページ丹念に食い入るように眺めていた。
「ナカタはなにしろ字が読めませんので、図書館に来たのははじめてであります」とナカタさんは言った。
「俺なんか自慢じゃないけどね、字が読めても、図書館に来たのははじめてだよ」と星野青年は言った。
「来てみますと、なかなかたのしいところであります」
「そりゃよかった」
「中野区にも図書館があります。これからはちょくちょく行ってみようと思います。入場無料というのがなによりであります。読み書きができなくても図書館に入れるとは、ナカタは知りませんでした」
「俺のイトコはさ、生まれつき目が見えないんだけど、それでもよく映画館にいくよ。なにが面白いのか、俺にはさっぱりわからねえけどさ」

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